Hazel Crossing

その時々気になったものを紹介したり、翻訳したりするブログ。 無断転載禁止です。

『モアナと伝説の海』の音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダについて

今日はモアナの音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダについてのお話です。

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(左から:リン=マニュエル・ミランダ、モアナ役のアウリイ・クラヴァーリョ、マウイ役のザ・ロックことドウェイン・ジョンソン

先日『モアナ』を2回も観て、ストーリーももちろんですが、音楽も本当に素晴らしいと思ったので、余韻に浸りながら色々と記事やインタビューを漁っていました。

その中で、主題歌などの音楽の制作過程や裏話などについて語っている面白いものがあり、今後その一部を和訳してご紹介しようと思っています。
ですが、その前に音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダのことをきちんと紹介しておかないと伝わらない部分が結構多いかと思いますので、まず今日は彼の説明をしておこうと思います。

『モアナと伝説の海』において、リン=マニュエル・ミランダは音楽の作曲・作詞を担当し、一部の曲の歌やラップにも参加しています。(サントラの「もっと遠くへ」と「もっと遠くへ (フィナーレ)」では歌っており、エンディングバージョンの「You're Welcome」(俺のおかげさ)ではラップをしています。)

リン=マニュエル・ミランダは日本では知名度はまだまだ低いですが、海外では爆発的な人気を誇るラップミュージカル『ハミルトン』の制作者・主演として知られており、音楽・ラップにおける類まれな才能は誰からも認められています。

では、そのリン=マニュエル・ミランダの代表的な作品と簡単な経歴などについてご紹介します。

まず簡単なプロフィールから:
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■名前:リン=マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)
■生年月日:1980年1月16日(37歳)(2017年3月現在)
■出身:アメリカのニューヨーク、マンハッタン区のインウッド(Inwood)※ワシントンハイツ(Washington Heights)とあまり遠くないらしいです。
■生まれはアメリカがご両親はプエルトリコ出身で、英語・スペイン語を話しながら育った。また、子供の頃は1年に1カ月ほどプエルトリコの祖父母の町に滞在していたと言う。
プエルトリコは米国の自治連邦区で住民はアメリカ国籍を持つため、アメリカに移住したリンのご両親は厳密に言うと「移民」ではなかったですが、来た当時スペイン語しか話せなかった二人の体験は移民のそれと類似点が多いと言えます。
■主な作品 ※一部
・ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(In the Heights)の制作者・主演
・ミュージカル『ハミルトン』(Hamilton)の制作者・主演
・ディズニー映画『モアナと伝説の海』(Moana)の音楽制作者(オペタイア・フォアイやマーク・マンシーナと共同。)
■受賞・ノミネート歴(一部)
トニー賞
・2008 ミュージカル 作品賞 『イン・ザ・ハイツ』

・2008 ミュージカル 楽曲賞 『イン・ザ・ハイツ』
・2016 ミュージカル 作品賞 『ハミルトン』
・2016 ミュージカル 脚本賞 『ハミルトン』
・2016 オリジナル楽曲 作曲・作詞:『ハミルトン』
グラミー賞
・2009 最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞『イン・ザ・ハイツ』

・2016 最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞 『ハミルトン』
ピューリッツァー賞
・2016 戯曲 『ハミルトン』

エミー賞
・2014 音楽賞 歌曲(第67回トニー賞 “Bigger!”   (トニー賞のオープニング、Tom Kittと一緒に受賞)

ゴールデングローブ賞
・2017 主題歌賞 “How Far I’ll Go”『モアナと伝説の海』 ※ノミネート

アカデミー賞
・2017 主題歌賞 “How Far I'll Go” 『モアナと伝説の海』 ※ノミネート

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大きなものはこんなところかな。
実際に他に色々受賞したり、これ以外にも沢山ノミネートされたりしているのですが、全部書き出すとそれだけで日が暮れるくらい、めっちゃくちゃノミネートされているので、ここまでにしておきます。
ちなみに、ミュージカル『ハミルトン』単体で言っても、役者・衣装やらのノミネート・受賞もかなり多いです。(トニー賞では主演男優賞・助演女優賞などはハミルトンの役者が受賞しています。)
では代表作について紹介しますね。

■リン=マニュエル・ミランダの
代表作品その①:『イン・ザ・ハイツ』

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『イン・ザ・ハイツ』はリン=マニュエル・ミランダが1999年の大学2年生の時に書いたミュージカルです。大学の劇団で上演することになってから、ラップやダンスなどの要素を色々追加していき、2000年に上演。

その後、大学のパフォーマンスを見た上級生や卒業生から、ブロードウェイを視野に入れて、更に作り込んでみてはどうか、というコメントをもらったそうです。その後、数年間をかけて作り込み、数々のワークショップやオフブロードウェイの上演などを経て、最終的に2008年にブロードウェイに登場し、まもなく大ヒットとなりました。

■『イン・ザ・ハイツ』のストーリー・特徴
『イン・ザ・ハイツ』はリン=マニュエル自身が育ったインウッド(Inwood)からあまり遠くないワシントンハイツ(Washington Heights)が舞台になっており、そこで暮らすドミニカ系アメリカ人などの多様な住民のコミュニティの生活や人間関係などを描いています。
『イン・ザ・ハイツ』がヒットになったのは、ラップ・ヒップホップ・サルサなどの音楽をとても自然にミュージカルのフォーマットに取り入れたことが一つの大きな理由だと言われています。
また、古典的なミュージカルと違うダイバーシティのある登場人物も大きなポイントだったそうです。『イン・ザ・ハイツ』は実際のワシントンハイツに暮らすような人々の物語です。移民の親を持ち、自分のルーツと向き合いつつ、アメリカに置ける自分のアイデンティティを探るキャラクターや、生活苦などの問題に直面するキャラクターなど、リアリティのある人物と生活を描いている点が大きな共感を呼ぶことになったようです。

『イン・ザ・ハイツ』に関しては私はあらすじしか読んでいませんが、今度サントラを買おうと思っていますので、聴いた後に感想やら追加できる情報があれば、またその時お知らせしますね。

ちなみに2014年に日本でも日本語・日本人キャストで上演されており、日本版の公式HPには日本語の歌詞がすべて上がっているので、気になった方はこちらをチェックしてみてください。
http://www.intheheights.jp/

■リン=マニュエル・ミランダの
代表作品その②:『ハミルトン』

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2008年の夏休みに、ちょっとした読み物として、リンがアメリカの建国の父の一人であるアレクサンダー・ハミルトンの伝記を読んだそうです。
アレクサンダー・ハミルトンはステータスもお金もない移民としてアメリカに来て、その非凡な才能と燃え上がる野心だけで上り詰めて、ジョージ・ワシントンの右腕になったり、時には他の建国の父たちと対立しながらも米国初の財務長官を勤めたりするなど、大きな役割を果たした人物です。

これらのアレクサンダー・ハミルトンの話を読んだリン=マニュエル・ミランダは何だかすごくヒップホップらしい…と思ったそうです。
それがきっかけで、とりあえずアレクサンダー・ハミルトンを題材としたラップのミックステープを作ることを決めたそうです。
そしてそのミックステープがゆくゆくは『ハミルトン』のミュージカルになったわけです。

■『ハミルトン』のストーリー
『ハミルトン』のミュージカルは、アレクサンダー・ハミルトンアメリカに来てから彼が死ぬまでの間を描いています。
その中に、イギリスとの独立戦争で仲間と一緒に闘ったり、財務長官になってからトーマス・ジェファーソンとディスバトルを繰り広げたりするなど、様々な場面があります。
また、これはミュージカルの最初の5分以内に明かされ、広く知られている史実なので決してネタバレではないのですが、ハミルトンはアーロン・バーという過去の友人で長年のライバル的な存在の人と決闘をし、その場で撃たれて数時間後死にます。
この内容だけ見ても、こんな話の漫画があったらヒットしそうだなとも思うし、リンがこの話に魅力を感じた理由もよく分かります。

■『ハミルトン』のキャスティング
ラップミュージカルであること以外に『ハミルトン』の大きな特徴になっているのはそのキャスティングです。『ハミルトン』において、ちょい役のイギリス王を除き、主要なキャストは全員非白人の役者が演じています。これについて、リン=マニュエル・ミランダはこう語っています、“This is a story about America then, told by America now”「これは、あの時のアメリカが、今のアメリカによって語られる物語。」
このキャスティングは本来自分たちを歴史の物語の中に見出すことができなかった人々に、物語を身近に感じさせるとともに、「誰にもチャンスはある」、というメッセージ性もあるように思います。

ご参考に、実際の歴史上の人物とその役を演じた最初のブロードウェイキャストの写真を掲載しますね。3つ並んでいるものは前半・後半で2役を演じている人です。
(1つの長い画像でしたが、アップすると圧縮されてぼやけてしまうので、3つの画像にせざるを得なかったです…すみません。)

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■『ハミルトン』の音楽
『イン・ザ・ハイツ』の時はラップやヒップホップなどの現代的な音楽を取り入れたことが高く評価されていましたが、『ハミルトン』は更にその先を行っています。
現代的なスラングも入れつつ、昔の口語っぽい言い回しや古い表現を巧妙に混ぜて当時の世界観を作り出しています。
それから、これは言われてみないと気付かなかったのですが、登場人物ごとにラップや歌い方の仕方を変えて、その人の性格などを表現しているそうです。
例えば、アレクサンダー・ハミルトン自身については、頭の良さを表現するために他の人物よりラップのライムスキームが高度で複雑になっています。ジョージ・ワシントンに関しては、ハミルトンとその仲間より一つ上の世代だったということで、少し古いスタイルのラップをしているそうです。
また、ライバルのアーロン・バーは本心を表さずに周りに合わせる性格の持ち主だったらしいので、彼の場合には音楽のスタイルが確立せずに劇中にコロコロ変わるみたいです。

■実際に『ハミルトン』の歌はどんな感じ?
日本にいながら『ハミルトン』を見ることはできませんが、その雰囲気を少しだけ味わうのに、これらの動画を見てみるのは良いかと思います。
まず、まだミュージカルとして構想する前の、ミックステープとして作っていた時期のリン=マニュエル・ミランダが当時のホワイトハウスのポエトリージャム(詩のパフォーマンスを中心としたイベント)に呼ばれていた時の動画です。『イン・ザ・ハイツ』のパフォーマンスをするために招かれたが、この時のリンはオバマ夫妻を前にハミルトンのラップを初披露しています。


ご覧の通り、オバマ夫妻は笑顔でスタンディングオベーション


ちなみに、この時と同じ曲がミュージカルとして完成しているのはこちらですね。
2016年のグラミー賞放送でのパフォーマンスです。
(パフォーマンスは1:00くらいのところから)


圧倒されますね。
こちらの歌詞ですが、本来ならこちらも和訳したかったのですが、リンのラップをまともに訳せる気があまりしない上に時間の問題もあるので、今回はやめておきます…いつかチャレンジしたら、またアップしますね。


■『ハミルトン』のチケットは非常に入手困難
この『ハミルトン』ですが、ヒットしたことで実はチケットが非常に入手困難です。
ずっと先までチケットがない、チケット1枚が500ドル(約5万円)以上で落札されたり、公式の再販売システムでも高額で取引されたりするなど、とにかく『ハミルトン』は生きている間には見れない・・・というようなネタが一時アメリカで流行るくらい、本当にチケットを入手するのが大変です。

そこで、学生や金銭的な余裕がない人でも見れるように、色々な取り組みを始めたそうです。一つは、高校生のみを招いた無償公演を行っているもので、もう一つは毎日行われている10ドルでチケットが購入できる抽選です。(これはハミルトンがアメリカの10ドル札に載っていることにちなんだ価格設定みたいです。)抽選は毎日エントリーしても良いそうで、ニューヨーク在住ですぐに行ける人で毎日のようにこれにエントリーしている人が多いそうです。(中々当たらないそうですが)

ちなみに、『ハミルトン』はミュージカルのDVDが未発売、映画化も今のところ特に予定はないそうです。なので、ほとんどのファンは実際の舞台は見ておらず、itunesなどで販売されているサントラのみを聴いてファンになった人です。(私もこちらに当たります)
ブートレグなるもの(ルールを破って、劇場にカメラを持ち込んで違法で録画したもの)もネットのどこかには存在しているらしいが、そういうのは良くないので、こちらでご紹介するのは上のような公共の放送に出たもの、またはミュージカルやホワイトハウスの公式youtubeが出しているものにしておきます。

『ハミルトン』のサントラのリンクはこちら

Hamilton (Original Broadway Cast Recording)

Hamilton (Original Broadway Cast Recording)

  • Original Broadway Cast of Hamilton
  • サウンドトラック
  • ¥3200

 

■ リン=マニュエル・ミランダはどんな人?

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とにかくリン・マニュエル・ミランダはすごくポジティブ、そしてとても温かい人です。
本当なら、エゴがすごくてもおかしくないくらい才能があって、誰からも天才と呼ばれているような人なのに、彼にはそのような様子が一切ないです。

どんな仕事に対しても真剣に向き合いますし、どんなにビッグになっても自分のルーツは決して忘れません。
例えば、アカデミー賞の授賞式に着て行ったスーツは高校時代の時にスーツをレンタルしたのと同じ店を使ったというエピソードもありますね。

また、リン=マニュエル・ミランダはツイッターをやっており、毎日ツイッター上でファンと交流しています。
例えば、ファンが恋人などに音楽のプレイリストを作ってあげる時のコツは?と聞いたら、それについてアドバイスをしたり、数日後自分もファンのために好きな音楽のプレイリストを実際に作ってあげたりしています。

つい最近もライターを目指したり、純粋に書くことが好きな人のためにプレイリストを作りましたね。
【和訳】ハイハイハイ。皆のためのこのミックスは予想してたよりも時間がかかってしまった。書いて打開せよ(※ハミルトンの中の歌詞です)愛してるよ。楽しんでね。


あとリンは「今日も1日頑張ろう!」的なつぶやきも良くしていますが、とにかく文才があるのでそれが一々美しかったり、感動的だったりするんですよ…

これとか可愛かったですね。
【和訳】おはよう!
(僕多分リアルライフではあなたのことは知らないだろう)
(そしてあなたも多分僕のことも知らない)
(でもインターウェブを通じて僕たちはいいものを送り合ったりできるよ)
(ほら)

上のつぶやきのように、リンはGIFが好きみたいで、それだけで他の有名人とやりとりをしたり、ファンに返事をしたりして楽しんでいます。
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以上、『モアナと伝説の海』の音楽制作に深く関わったリン=マニュエル・ミランダについてのご紹介でした。
最初は短い紹介のつもりでしたが、かなりの長文になってしまいました…経歴がすごいから仕方ないのですが。

次回は本題だったはずモアナの曲についてリン=マニュエル・ミランダがコメントしているものをいくつかピックアップしてご紹介する予定です。

では。