Hazel Crossing

その時々気になったものを紹介したり、翻訳したりするブログ。 無断転載禁止です。

『モアナと伝説の海』: 初期段階の『How Far I’ll Go』がまったくの別物だったというお話

DVD発売に合わせて、今日は『モアナと伝説の海』の主題歌である『How Far I’ll Go』のお話です。
(※一部『モアナと伝説の海』に関するネタバレが含まれているので未見の方はご注意ください。)f:id:hazel_crossing:20170714024603j:plain
■ディズニー作品に置ける「I Want Song」とは
まず、ミュージカル作品において、主人公の夢や望みなどを伝える「I Want Song」というものがあると言われています。これはミュージカル全般で言われていることですが、ディズニーの主人公たちにもこの「I Want Song」に該当する歌がよく見られています。

主人公は心から何を望んでいるかを歌で伝えていれば、大体それが「I Want Song」になります。自分の憧れだったり、今後はこうしたいという決意だったり、色々あります。ここで歌われる望み/願望は主人公の主要なモチベーションであり、主人公の行動のベースになってきます。

■『リトルマーメイド』の場合
過去のもので言うと、『リトルマーメイド』はアリエルの『パート・オブ・ユア・ワールド』がありますね。地上の世界に行ってみたい、人間が足で踊っているところを見てみたい!と、そんな思いを歌っています。(英語版は「I wanna be where the people are, I wanna, wanna see them dancing」という歌詞でまんま「I want」と言っていますね。
この望みを叶えるために、アリエルはウルスラと取り引きをし、期限付きで人間にしてもらいます。これは「I Want Song」で明かされた望みが直接的に主人公の行動に表れているとても分かりやすい例です。

■『美女と野獣』の場合

美女と野獣』にも主題歌ではないものの、「I Want Song」に当たるものが確かにあります。『ベル』の歌で、ベルは地味な田舎暮らしの中で小説を読みながら他のもっと素敵な世界のことを夢見ている、そして町の人たちに少し変わった娘だと思われている、という情報が伝えられています。
英語の歌詞は「There must be more than this provincial life」(こんな田舎暮らし以外にもっと何かあるはずだ)となっており、日本語版の「もっと素敵な世界が見たい」とほぼ同じニュアンスになっています。
この歌の内容から、ベルがその後結婚の申し込みを断るところや、野獣のことを見た目だけで判断せずに中身もちゃんと見ることができる視野の広さなどが読み取れます。

■モアナが歌う「I Want Song」
では、モアナの「I want Song」である『How Far I’ll Go』について話しましょう。
こちらは「水平線の先にあるものを見てみたい」という願望がベースになっています。

前回のエントリーでご紹介したように、この主題歌を含めモアナの多くの曲を作っているのはリン=マニュエル・ミランダという人ですが、彼がいくつかのインタビューで『How Far I’ll Go』について語っています。
その中に、この主題歌が『モアナ』とそのキャラクターにどのような影響を与えたかについて話している興味深いものがありましたので、ご紹介しようと思います。
※インタビューはバラバラの媒体・記事から一部抜粋したものを分かりやすい順番に並べています。

まず最初に、『How Fall I’ll Go』ってどんな歌か?という質問に対してリン=マニュエル・ミランダはこう語っています。
「難しい歌ですよ。「ここが嫌い、あそこに行きたい」ではない。「こんな田舎暮らし以外にもっと何かあるはずだ」※でもない。彼女は島が大好き、親が大好き、村の人たちも大好き。なのに、心の中から訴えかけてくる声がある。」※この部分は『ベル』の歌詞の一部を引用しています 
Trippin' With Tara 2016年11月22日 「Lin-Manuel Miranda」

確かに、モアナの場合は島に対して嫌な想いがあって出ていきたいのではないし、日頃から外の世界に対する興味・好奇心を抑えるようにして島で自分の与えられた役割を果たそうとして頑張っています。これはアリエルともベルとも明らかに違うところで、『モアナ』の作品においてかなり大きな特徴になっていると思います。

ところが、別のインタビューを見てみると、『How Far I’ll Go』は最初からこのような内容ではなかったようです。リン=マニュエル・ミランダによると、その前身となる、かなり違う歌があったそうです。
「実は『How Far I’ll Go』を書くに前に、最初は『More』という、ゆくゆく『How Far I’ll Go』に進化する歌を作りました。『More』は良い歌でしたよ。申し分ない歌でしたが、その中でモアナは「よし、この島はもう慣れっこだ!外に何があるか見てみたい!」と歌っていました。」
The DINNER PARTY Download® 2017年2月10日 「Lin-Manuel Miranda on ‘I Want’ Songs, Going Method for ‘Moana’ and Fearing David Bowie」

元の『More』という歌は『リトルマーメイド』や『美女と野獣』の歌にやや近い内容だったようですね。
では、それが今の形になったのは何故でしょうか?
インタビューを読み進んでみると、それは『モアナ』の作品世界と大きな矛盾が発生してしまっていたからそうです。

■『いるべき場所へ』

作中に『How Far I’ll Go』の直前に『いるべき場所へ』という歌があります。 『いるべき場所へ』では、モアナのお父さんを中心に村の人々が島での幸せな暮らしについて歌っており、『More』はまさにここと合致しなかったようです。
「村とその暮らしがいかに素晴らしいかを歌い、(歌を通じて)その世界が大好きになっていました。なので、その世界を大好きになった直後、いきなりモアナの歌が「この世界から出て行こう!」という内容じゃ行けなくて(笑)「ここがこんなにも大好きなのに、頭の中でこの声が訴えかけてくるのは何故だろう」でなければいけなかったんですよ。」
People 2017年2月24日 「How Lin-Manuel Miranda's Oscar-Nominated Moana Track Evolved into Disney's Most Unique Ballad」

確かに、『いるべき場所へ』ではモアナの島とのその村がかなり素敵な描写をされています。歌と映像の表現の中でモアナが外の世界に興味を示しているのは間違いないですが、それでも「海に出ちゃいけない」という村(と父親)の掟を受け入れようと頑張っていることや、島に対する愛情が本物であるのは明らかです。
個人的にこの歌を最初に聴いた時は、「and no one leaves」(そして誰も出ていかない/出ちゃいけない)の歌詞はやや締め付けられるような窮屈さを感じたりもしましたが、島が悪いところでも、モアナの家族が嫌になるという感じではないと思います。

具体的に歌の変更についてリン=マニュエル・ミランダはこう話します:
「『How Far I’ll Go』を今の形にしてくれたインサイトがありましたよ。彼女が今いる場所が嫌いで違うところに行きたい、というわけじゃないんです。モアナはその場所が大好きです。親が大好きです。島が大好きです。島のコミュニティが大好きです。それでも彼女に訴えかけてくる声があるんですよ。
それで、それがより複雑なモチベーションでありつつ、より僕が育った中で経験したものとも近かったです。僕は自分のことを応援してくれる、愛してくれる親がいた。大好きな近所に暮らしていた。学校に行ったら、友達もいた。でも、「映画と番組を作りたい」という僕が持っていた夢と、その当時の僕のいた現実は実に掛け離れすぎていました。いわゆるショービジネスの職業をしている人を誰も知らなかった、その世界の人を知る術もなかったんです。」
The DINNER PARTY Download® 2017年2月10日 「Lin-Manuel Miranda on ‘I Want’ Songs, Going Method for ‘Moana’ and Fearing David Bowie」

更に、『How Far I’ll Go』を作るに当たり、よりモアナの精神状態に近づけるためリン=マニュエル・ミランダがある工夫をしたと話しています。
「この歌(More)が今の『How Far I’ll go』に進化したのが僕が実家で作業していた時だったのは偶然じゃありません。メソッド演技法のような感じでしたね。実家の自分の部屋にこもって、「よし、今の僕は16歳で本当にやりたいことと現在の自分との間に絶対に越えられない無理な距離がある!」と自分に言い聞かせたんです。」
The DINNER PARTY Download® 2017年2月10日 「Lin-Manuel Miranda on ‘I Want’ Songs, Going Method for ‘Moana’ and Fearing David Bowie」

前回のかなり前に書いたエントリーでリン=マニュエル・ミランダの経歴をあれほど詳しく書いた理由はこの上のインタビューです。
リン=マニュエル・ミランダは今では天才的なミュージカル制作者として知られている「すごい人」ですが、彼も16歳の頃はそれは絶対に考えられなかった未来でした。その頃の彼はモアナ同様、届きそうにない世界のことを夢見ていました。このように、制作者の想いと物語の主軸・主人公の魂が密接につながっていると思うと、実に興味深いですね。

また、この歌の変更が物語に与えた影響は計り知れないと思います。
もし『More』がそのまま使われたのなら、モアナが島の暮らしに飽きた後、どうにかして海に出て自由になる物語になっていたのかもしれません。それはそれで良い物語だったかもしれません。

ですが、この作品は冒険物ではありますが、同時に島のリーダーになる運命を持つモアナが試される物語でもあると思っています。
その中で、島と村人に対する責任だけでなく、自分の望みも大切に思っても良い、追いかけても良い、というメッセージが感じられるところは本当に良いなと思います。
島での責任を最優先し、海に出ることを一切あきらめる自己犠牲を美学とする物語になる可能性だってあったと思うと、本当に主題歌が『How Far I’ll Go』 になって良かったと思います。(さすがにディズニー作品にそのような夢のない展開はないと思いますが。)

とにかく、肝心な「I want Song」で歌われる内容が違っていれば、作品全体もまったく違うものになるということはこの話を通じて実感して頂けるのではないかと思います。

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それにしても、これらのインタビューを読んでみて思ったのですが、ディズニーの映画は必ずしもストリー⇒音楽、という簡単な流れでは作られておらず、音楽とストーリーは互いに影響し合って最終的に作られるものですね。
イメージでは「こんなキャラクターはこんな場面でこんな歌が必要なんで、よろしく!」くらいのものだと思っていましたが…全然違いますね。
インタビューから伺われる感じでは、ディズニーは音楽とストーリーの化学反応を大切にしているようで、それは良い作品ばかり作られるわけだと納得しました。

How Far I'll Go

How Far I'll Go

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【お詫び】
実はこのブログを三カ月くらい前にアップする予定でしたが、色々あって、気付いたらDVDも発売される時期になってしまいました…すみません。

今後はもう少し頻繁にブログ更新ができればと思っています。
(実現できるかは少し微妙なところですが…)

では。

『モアナと伝説の海』の音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダについて

今日はモアナの音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダについてのお話です。

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(左から:リン=マニュエル・ミランダ、モアナ役のアウリイ・クラヴァーリョ、マウイ役のザ・ロックことドウェイン・ジョンソン

先日『モアナ』を2回も観て、ストーリーももちろんですが、音楽も本当に素晴らしいと思ったので、余韻に浸りながら色々と記事やインタビューを漁っていました。

その中で、主題歌などの音楽の制作過程や裏話などについて語っている面白いものがあり、今後その一部を和訳してご紹介しようと思っています。
ですが、その前に音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダのことをきちんと紹介しておかないと伝わらない部分が結構多いかと思いますので、まず今日は彼の説明をしておこうと思います。

『モアナと伝説の海』において、リン=マニュエル・ミランダは音楽の作曲・作詞を担当し、一部の曲の歌やラップにも参加しています。(サントラの「もっと遠くへ」と「もっと遠くへ (フィナーレ)」では歌っており、エンディングバージョンの「You're Welcome」(俺のおかげさ)ではラップをしています。)

リン=マニュエル・ミランダは日本では知名度はまだまだ低いですが、海外では爆発的な人気を誇るラップミュージカル『ハミルトン』の制作者・主演として知られており、音楽・ラップにおける類まれな才能は誰からも認められています。

では、そのリン=マニュエル・ミランダの代表的な作品と簡単な経歴などについてご紹介します。

まず簡単なプロフィールから:
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■名前:リン=マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)
■生年月日:1980年1月16日(37歳)(2017年3月現在)
■出身:アメリカのニューヨーク、マンハッタン区のインウッド(Inwood)※ワシントンハイツ(Washington Heights)とあまり遠くないらしいです。
■生まれはアメリカがご両親はプエルトリコ出身で、英語・スペイン語を話しながら育った。また、子供の頃は1年に1カ月ほどプエルトリコの祖父母の町に滞在していたと言う。
プエルトリコは米国の自治連邦区で住民はアメリカ国籍を持つため、アメリカに移住したリンのご両親は厳密に言うと「移民」ではなかったですが、来た当時スペイン語しか話せなかった二人の体験は移民のそれと類似点が多いと言えます。
■主な作品 ※一部
・ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』(In the Heights)の制作者・主演
・ミュージカル『ハミルトン』(Hamilton)の制作者・主演
・ディズニー映画『モアナと伝説の海』(Moana)の音楽制作者(オペタイア・フォアイやマーク・マンシーナと共同。)
■受賞・ノミネート歴(一部)
トニー賞
・2008 ミュージカル 作品賞 『イン・ザ・ハイツ』

・2008 ミュージカル 楽曲賞 『イン・ザ・ハイツ』
・2016 ミュージカル 作品賞 『ハミルトン』
・2016 ミュージカル 脚本賞 『ハミルトン』
・2016 オリジナル楽曲 作曲・作詞:『ハミルトン』
グラミー賞
・2009 最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞『イン・ザ・ハイツ』

・2016 最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞 『ハミルトン』
ピューリッツァー賞
・2016 戯曲 『ハミルトン』

エミー賞
・2014 音楽賞 歌曲(第67回トニー賞 “Bigger!”   (トニー賞のオープニング、Tom Kittと一緒に受賞)

ゴールデングローブ賞
・2017 主題歌賞 “How Far I’ll Go”『モアナと伝説の海』 ※ノミネート

アカデミー賞
・2017 主題歌賞 “How Far I'll Go” 『モアナと伝説の海』 ※ノミネート

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大きなものはこんなところかな。
実際に他に色々受賞したり、これ以外にも沢山ノミネートされたりしているのですが、全部書き出すとそれだけで日が暮れるくらい、めっちゃくちゃノミネートされているので、ここまでにしておきます。
ちなみに、ミュージカル『ハミルトン』単体で言っても、役者・衣装やらのノミネート・受賞もかなり多いです。(トニー賞では主演男優賞・助演女優賞などはハミルトンの役者が受賞しています。)
では代表作について紹介しますね。

■リン=マニュエル・ミランダの
代表作品その①:『イン・ザ・ハイツ』

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『イン・ザ・ハイツ』はリン=マニュエル・ミランダが1999年の大学2年生の時に書いたミュージカルです。大学の劇団で上演することになってから、ラップやダンスなどの要素を色々追加していき、2000年に上演。

その後、大学のパフォーマンスを見た上級生や卒業生から、ブロードウェイを視野に入れて、更に作り込んでみてはどうか、というコメントをもらったそうです。その後、数年間をかけて作り込み、数々のワークショップやオフブロードウェイの上演などを経て、最終的に2008年にブロードウェイに登場し、まもなく大ヒットとなりました。

■『イン・ザ・ハイツ』のストーリー・特徴
『イン・ザ・ハイツ』はリン=マニュエル自身が育ったインウッド(Inwood)からあまり遠くないワシントンハイツ(Washington Heights)が舞台になっており、そこで暮らすドミニカ系アメリカ人などの多様な住民のコミュニティの生活や人間関係などを描いています。
『イン・ザ・ハイツ』がヒットになったのは、ラップ・ヒップホップ・サルサなどの音楽をとても自然にミュージカルのフォーマットに取り入れたことが一つの大きな理由だと言われています。
また、古典的なミュージカルと違うダイバーシティのある登場人物も大きなポイントだったそうです。『イン・ザ・ハイツ』は実際のワシントンハイツに暮らすような人々の物語です。移民の親を持ち、自分のルーツと向き合いつつ、アメリカに置ける自分のアイデンティティを探るキャラクターや、生活苦などの問題に直面するキャラクターなど、リアリティのある人物と生活を描いている点が大きな共感を呼ぶことになったようです。

『イン・ザ・ハイツ』に関しては私はあらすじしか読んでいませんが、今度サントラを買おうと思っていますので、聴いた後に感想やら追加できる情報があれば、またその時お知らせしますね。

ちなみに2014年に日本でも日本語・日本人キャストで上演されており、日本版の公式HPには日本語の歌詞がすべて上がっているので、気になった方はこちらをチェックしてみてください。
http://www.intheheights.jp/

■リン=マニュエル・ミランダの
代表作品その②:『ハミルトン』

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2008年の夏休みに、ちょっとした読み物として、リンがアメリカの建国の父の一人であるアレクサンダー・ハミルトンの伝記を読んだそうです。
アレクサンダー・ハミルトンはステータスもお金もない移民としてアメリカに来て、その非凡な才能と燃え上がる野心だけで上り詰めて、ジョージ・ワシントンの右腕になったり、時には他の建国の父たちと対立しながらも米国初の財務長官を勤めたりするなど、大きな役割を果たした人物です。

これらのアレクサンダー・ハミルトンの話を読んだリン=マニュエル・ミランダは何だかすごくヒップホップらしい…と思ったそうです。
それがきっかけで、とりあえずアレクサンダー・ハミルトンを題材としたラップのミックステープを作ることを決めたそうです。
そしてそのミックステープがゆくゆくは『ハミルトン』のミュージカルになったわけです。

■『ハミルトン』のストーリー
『ハミルトン』のミュージカルは、アレクサンダー・ハミルトンアメリカに来てから彼が死ぬまでの間を描いています。
その中に、イギリスとの独立戦争で仲間と一緒に闘ったり、財務長官になってからトーマス・ジェファーソンとディスバトルを繰り広げたりするなど、様々な場面があります。
また、これはミュージカルの最初の5分以内に明かされ、広く知られている史実なので決してネタバレではないのですが、ハミルトンはアーロン・バーという過去の友人で長年のライバル的な存在の人と決闘をし、その場で撃たれて数時間後死にます。
この内容だけ見ても、こんな話の漫画があったらヒットしそうだなとも思うし、リンがこの話に魅力を感じた理由もよく分かります。

■『ハミルトン』のキャスティング
ラップミュージカルであること以外に『ハミルトン』の大きな特徴になっているのはそのキャスティングです。『ハミルトン』において、ちょい役のイギリス王を除き、主要なキャストは全員非白人の役者が演じています。これについて、リン=マニュエル・ミランダはこう語っています、“This is a story about America then, told by America now”「これは、あの時のアメリカが、今のアメリカによって語られる物語。」
このキャスティングは本来自分たちを歴史の物語の中に見出すことができなかった人々に、物語を身近に感じさせるとともに、「誰にもチャンスはある」、というメッセージ性もあるように思います。

ご参考に、実際の歴史上の人物とその役を演じた最初のブロードウェイキャストの写真を掲載しますね。3つ並んでいるものは前半・後半で2役を演じている人です。
(1つの長い画像でしたが、アップすると圧縮されてぼやけてしまうので、3つの画像にせざるを得なかったです…すみません。)

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■『ハミルトン』の音楽
『イン・ザ・ハイツ』の時はラップやヒップホップなどの現代的な音楽を取り入れたことが高く評価されていましたが、『ハミルトン』は更にその先を行っています。
現代的なスラングも入れつつ、昔の口語っぽい言い回しや古い表現を巧妙に混ぜて当時の世界観を作り出しています。
それから、これは言われてみないと気付かなかったのですが、登場人物ごとにラップや歌い方の仕方を変えて、その人の性格などを表現しているそうです。
例えば、アレクサンダー・ハミルトン自身については、頭の良さを表現するために他の人物よりラップのライムスキームが高度で複雑になっています。ジョージ・ワシントンに関しては、ハミルトンとその仲間より一つ上の世代だったということで、少し古いスタイルのラップをしているそうです。
また、ライバルのアーロン・バーは本心を表さずに周りに合わせる性格の持ち主だったらしいので、彼の場合には音楽のスタイルが確立せずに劇中にコロコロ変わるみたいです。

■実際に『ハミルトン』の歌はどんな感じ?
日本にいながら『ハミルトン』を見ることはできませんが、その雰囲気を少しだけ味わうのに、これらの動画を見てみるのは良いかと思います。
まず、まだミュージカルとして構想する前の、ミックステープとして作っていた時期のリン=マニュエル・ミランダが当時のホワイトハウスのポエトリージャム(詩のパフォーマンスを中心としたイベント)に呼ばれていた時の動画です。『イン・ザ・ハイツ』のパフォーマンスをするために招かれたが、この時のリンはオバマ夫妻を前にハミルトンのラップを初披露しています。


ご覧の通り、オバマ夫妻は笑顔でスタンディングオベーション


ちなみに、この時と同じ曲がミュージカルとして完成しているのはこちらですね。
2016年のグラミー賞放送でのパフォーマンスです。
(パフォーマンスは1:00くらいのところから)


圧倒されますね。
こちらの歌詞ですが、本来ならこちらも和訳したかったのですが、リンのラップをまともに訳せる気があまりしない上に時間の問題もあるので、今回はやめておきます…いつかチャレンジしたら、またアップしますね。


■『ハミルトン』のチケットは非常に入手困難
この『ハミルトン』ですが、ヒットしたことで実はチケットが非常に入手困難です。
ずっと先までチケットがない、チケット1枚が500ドル(約5万円)以上で落札されたり、公式の再販売システムでも高額で取引されたりするなど、とにかく『ハミルトン』は生きている間には見れない・・・というようなネタが一時アメリカで流行るくらい、本当にチケットを入手するのが大変です。

そこで、学生や金銭的な余裕がない人でも見れるように、色々な取り組みを始めたそうです。一つは、高校生のみを招いた無償公演を行っているもので、もう一つは毎日行われている10ドルでチケットが購入できる抽選です。(これはハミルトンがアメリカの10ドル札に載っていることにちなんだ価格設定みたいです。)抽選は毎日エントリーしても良いそうで、ニューヨーク在住ですぐに行ける人で毎日のようにこれにエントリーしている人が多いそうです。(中々当たらないそうですが)

ちなみに、『ハミルトン』はミュージカルのDVDが未発売、映画化も今のところ特に予定はないそうです。なので、ほとんどのファンは実際の舞台は見ておらず、itunesなどで販売されているサントラのみを聴いてファンになった人です。(私もこちらに当たります)
ブートレグなるもの(ルールを破って、劇場にカメラを持ち込んで違法で録画したもの)もネットのどこかには存在しているらしいが、そういうのは良くないので、こちらでご紹介するのは上のような公共の放送に出たもの、またはミュージカルやホワイトハウスの公式youtubeが出しているものにしておきます。

『ハミルトン』のサントラのリンクはこちら

Hamilton (Original Broadway Cast Recording)

Hamilton (Original Broadway Cast Recording)

  • Original Broadway Cast of Hamilton
  • サウンドトラック
  • ¥3200

 

■ リン=マニュエル・ミランダはどんな人?

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とにかくリン・マニュエル・ミランダはすごくポジティブ、そしてとても温かい人です。
本当なら、エゴがすごくてもおかしくないくらい才能があって、誰からも天才と呼ばれているような人なのに、彼にはそのような様子が一切ないです。

どんな仕事に対しても真剣に向き合いますし、どんなにビッグになっても自分のルーツは決して忘れません。
例えば、アカデミー賞の授賞式に着て行ったスーツは高校時代の時にスーツをレンタルしたのと同じ店を使ったというエピソードもありますね。

また、リン=マニュエル・ミランダはツイッターをやっており、毎日ツイッター上でファンと交流しています。
例えば、ファンが恋人などに音楽のプレイリストを作ってあげる時のコツは?と聞いたら、それについてアドバイスをしたり、数日後自分もファンのために好きな音楽のプレイリストを実際に作ってあげたりしています。

つい最近もライターを目指したり、純粋に書くことが好きな人のためにプレイリストを作りましたね。
【和訳】ハイハイハイ。皆のためのこのミックスは予想してたよりも時間がかかってしまった。書いて打開せよ(※ハミルトンの中の歌詞です)愛してるよ。楽しんでね。


あとリンは「今日も1日頑張ろう!」的なつぶやきも良くしていますが、とにかく文才があるのでそれが一々美しかったり、感動的だったりするんですよ…

これとか可愛かったですね。
【和訳】おはよう!
(僕多分リアルライフではあなたのことは知らないだろう)
(そしてあなたも多分僕のことも知らない)
(でもインターウェブを通じて僕たちはいいものを送り合ったりできるよ)
(ほら)

上のつぶやきのように、リンはGIFが好きみたいで、それだけで他の有名人とやりとりをしたり、ファンに返事をしたりして楽しんでいます。
――――

以上、『モアナと伝説の海』の音楽制作に深く関わったリン=マニュエル・ミランダについてのご紹介でした。
最初は短い紹介のつもりでしたが、かなりの長文になってしまいました…経歴がすごいから仕方ないのですが。

次回は本題だったはずモアナの曲についてリン=マニュエル・ミランダがコメントしているものをいくつかピックアップしてご紹介する予定です。

では。

【猫の日】ケイト・マッキノンと愛猫のニノのお話

こんばんは&ハッピー猫の日です~

今日は『ゴーストバスターズ』のホルツマンこと、ケイトマッキノンと愛猫のニノのお話です☆
ツイッターの方でもすでに上げていますが、1年に1度の猫の日だし、とにかくしばらく更新していなかったのでこちらでもご紹介しようと思います☆

ケイトマッキノンって実はものすごい猫好きってご存知でしょうか?
海外では彼女の猫好きが有名で、例えば『GQ』という雑誌の取材を受けた時にこんな感じの撮影をしました↓f:id:hazel_crossing:20170222225343j:plain

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(いいなぁ)

それでは本題ですが、ケイトマッキノンは「ニノ」というこちらの猫を飼ってらっしゃいます。f:id:hazel_crossing:20170222225535j:plain名前は彼が発見されたピザ屋さんから取っているそうです。
(ケイトいわく、ピザのクラストばっかり食べようとしていたらしく、保護された時はピザ屋の人たちも安心しただとか。冗談か本当かは定かでないのですが)

f:id:hazel_crossing:20170222225627j:plain写真でもお分かりかと思いますが、ニノ君、結構大きめです。
ケイトが彼の体重について何回かテレビで言及していますが、彼は何と7キロ(!!!)もあるそうです。
頑張ってダイエットさせようとしているという話もありましたが、その後どうなったかというのはまだ明らかになっていません。

では、先も少し書きましたが、ケイトマッキノンが飼い猫の体重についてテレビで言及しているという話に対して、え?と思った人はいないのかな?
テレビで飼い猫の体重について話している芸能人って聞いたことないよって?
ケイトはトーク番組に出る時は大体猫の話をしているんです。
それほどまでに本当にニノのことが大大大大大好きなんです。

ではその出演時のスクリーンキャプを少し集めたので投下しますね☆
(画質が微妙ですみません…)

◆『The Ellen DeGeneres Show』にてf:id:hazel_crossing:20170222225759j:plain

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◆『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』にてf:id:hazel_crossing:20170222225849j:plain

◆『Late Night with Seth Meyers』にてf:id:hazel_crossing:20170222230253p:plain

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以上が色んなトーク番組でケイトがニノを紹介する時の画像でした☆

ケイトマッキノンはSNSは一切やっておらず、トーク番組くらいでしかニノが見れなくて残念すぎるのでいつかSNS始めて欲しいなぁ…
そんな日が来ることを祈りながら、次のトーク番組でニノの出番が来るのを待つしかないですね。


【おまけ】
ホルツマンがカッコよすぎて大好きなシーン
(めっちゃネタバレになるので、『ゴーストバスターズ』鑑賞がまだの方はくれぐれも見ないでくださいね!)

MILCK 『Devil, Devil』 歌詞和訳

前回の『Quiet』に続き、MILCKさんの『Devil, Devil』を和訳してみました☆
こちらは『Quiet』 より先に発表されて、いくつかの海外ドラマの挿入曲として使われたみたいですね。(ドラマの詳細は記事の一番下でご覧いただけます。)

 

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MILCK  『Devil, Devil』 歌詞の和訳
和訳:Hazel Crossing @hazel_crossing

Devil, devil 
clever devil devil 
How quickly they do sell their souls 
For the feast and the promise of gold 
But devil that won't be me
Devil, devil
ずるかしこい devil devil
彼らがいとも早く魂を売り飛ばして
宴会と黄金の約束と引き換えに
でもdevilめ、私はそうはならない

Devil, devil
Bones of metal metal
You torture saints with a single glance
Make them think they ever stood a chance 
Devil, devil
金属、金属でできた骨
聖人を一目で苦しめ
ちょっとでもチャンスがあると思わせる

Do not try me devil devil
Cannot buy me devil devil
You won't make a fool of me oh no
What makes you so special special
to think i would ever settle
For that devious dance between you and me devil devil
私を試すな devil, devil
私を買えやしないよ devil devil
馬鹿にはさせないよ oh no
あなたは何がそんなに特別か?特別
私がまさかあんな妥協をすると、あなたに思わせるほど
私とあなたの間の邪悪なダンスなんかのために、devil devil

rebel rebel call me rebel rebel
i walk the plank, not a tear in my eye
i won't go down your blushing bride
Under the water i'll be sharpening my knife
反逆者 反逆者 反逆者と呼べ 反逆者
私は板を歩き、目に涙一つもなく
頬を赤らめるあなたの花嫁としては終わらないよ
水面下ではナイフを研いでいるよ

do not try me devil devil
cannot buy me devil devil
You won't make a fool of me oh no
What makes you so special special
to think i would ever settle
For that devious dance between you and me devil devil
私を試すな devil, devil
私を買えやしないよ devil devil
馬鹿にはさせないよ oh no
あなたは何がそんなに特別か?特別
私がまさかあんな妥協をすると、あなたに思わせるほど
私とあなたの間の邪悪なダンスなんかのために、devil devil

you take the shape of
everything that I'm drawn to
you take the shape of
everything that I'm drawn to
but your eyes
are dead and red
red as rust
私を惹きつけるすべてのもの
の形を取る
私を惹きつけるすべてのもの
の形を取る
でもあなたのその目は
死んでいて、赤い
サビのように真っ赤

do not try me devil devil
cannot buy me devil devil
You won't make a fool of me oh no
What makes you so special special
to think i would ever settle
For that devious dance between you and me devil devil
私を試すな devil, devil
私を買えやしないよ devil devil
馬鹿にはさせないよ oh no
あなたは何がそんなに特別か?特別
私がまさかあんな妥協をすると、あなたに思わせるほど
私とあなたの間の邪悪なダンスなんかのために、devil devil

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■翻訳メモ
「walk the plank」(板を歩く)=海賊映画などでよく見かける、船についている板を歩かせ、海に飛び込ませるアレ
パイレーツ・オブ・カリビアンとかでもそういうシーンありましたね。
基本的には海の処刑的なニュアンスがありますね。
だからそのあとの「under the water I'll be sharpening my knife」(水面下ではナイフを研いでいるよ)が来ますね。
「海に飛び込ませて死なせようとしても、水中からナイフで仕返ししてやるから」、と。

相変わらずMILCKさん、強いです。
こんなノリ大好きです。

Devil Devil

Devil Devil

  • MILCK
  • ポップ
  • ¥200

■この曲が使われた海外ドラマなど
LUCIFER/ルシファー 2X9 (シーズン2、第9話)
The Royals 2X10 (シーズン2、第10話)
Pretty Little Liars/プリティ・リトル・ライアーズ 2017年(予定)※

※MILCKさん公式HPでは予定として上がっており、詳細な情報はまだ未定です。

MILCK が『Quiet』の歌詞の意味を解説 Allureインタビュー記事和訳

ツイッターで見かけたMILCKさんの『QUIET』という歌を聴いてからかなり感銘を受けて、「歌詞を訳そう、訳せねば!!」って衝動に駆られてすっかりファンになった私ですが、実際に訳そうとすると、色々表現で迷ったり、「この解釈で大丈夫だろうか?」と悩んだりしておりました…

ですがまさにその時に、何とMILCKさん自身による歌詞解説が!!!

米雑誌『ALLURE』のウェブ版のインタビューでMILCKさんが歌詞に込めた想いとその意味について丁寧に答えてくださっているので、今日はその記事をご紹介したいと思います!

前回投稿した『Quiet』の歌詞和訳はこちら:
MILCK 『Quiet』 歌詞和訳 - Hazel Crossing

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「歌手MILCKがウィーメンズマーチのバイラルアンセムの深い意味を共有」
By CHANTEL MOREL  @CHANTELMOREL  2017年1月28日
元記事:http://www.allure.com/story/milck-womens-march-anthem
和訳:Hazel Crossing @hazel_crossing

f:id:hazel_crossing:20170216025216j:plain

1月21日、女性の権利を訴えるマーチのために何十万人がワシントンに集まった時、ミュージシャンのコニー・リム(歌手名MILCK)が他に26人の女性と一緒に声を武器にし、立ち上がった。フラッシュモブ形式で行った歌のパフォーマンスは瞬く間に世界中に聴かれる(そして感じられる)ことになる。私たちは最近リムさんと一緒にお話する機会ができ、Allureの独占インタビューのために彼女が勇敢にも歌詞の意味を解説してくださった。
他の詩と同様、この解放的な歌の歌詞は単語一つ一つにより大きな意味と意図が込められている。

MILCKはDV(ドメスティックバイオレンス)、うつ病、と拒食症の生存者。彼女が自分の話を打ち明けられるようなるまでに11年かかった。すべてはロスのオープンマイクで始まった。オープンマイクの会場は親密な空間で、多様性を受け入れてくれる姿勢のある観客が多かった。MILCKが安心できる「安全空間」だった。その瞬間から、彼女は自分の音楽的才能を共有する自由を得た。

何年か後、ロス出身の彼女は4時間をかけてプロデューサーのAdrianne Gonzalezと一緒にあとにウィーメンズマーチの非公式なアンセムとなる歌、『Quiet』を作曲した。(後に歌のミュージックビデオも発表。)
「一人で曲を発表したので、少しは「ダビデゴリアテ」みたいな気分だったけど、この歌は絶対にシェアすべきだと強く感じたので」とMILCKがAllureに語る。
ワシントンDCでウィーメンズマーチが開催されると聞いた時、彼女はワシントンDCとロスエリアで活動する合唱団のメンバーを誘ってマーチで一緒に歌うことを決めた。

この短時間にこれほど多くの人に自分の歌が届く何てことを、彼女は夢にも思わなかった。マーチで彼女のパフォーマンスを見た通りすがりの他人が動画をFacebookに投稿し、今ではその動画の視聴数が1400万回にも上がっている。それ以来、世界中から『Quiet』を歌わせて欲しいという連絡が様々の合唱団からMILCKの元に殺到しているそうだ。

この勢いを保つために、MILCKは「#ICantKeepQuiet」と名づけた世界的な運動を始めようとしている。彼女の計画の一部は「I Can’t Keep Quietデー」を作ることだ。沢山の女性に『Quiet』を歌ったり、自分の経験や想いを話したりしているところを動画に撮り、動画を投稿してもらう日にする計画だ。(#ICantKeepQuiet運動に関する詳細な情報が分かり次第、またAllureからお知らせします。)
では(運動の詳細が分かるまで)とりあえず、MILCKの歌詞の詳しい解説はこの下でご覧いただけます。
◆ ◆ ◆

「Put on your face」(化粧をしなさい)※直訳:顔を付ける=化粧をする
前にこれについて姉とよく冗談を言っていた。「よし!顔をつけなきゃ」(化粧をしなきゃ)って。
この歌詞は最近よく考えたりするよ。メイクが悪いとか恥だとか、そういう意味だと勘違いされたくないので。メイクをする行為のより深い意味だ。例えば、誰かが自分に露骨なセクハラ発言をしたら、前はただ笑い流していたよ。それが私にとって「顔をつける」ことだった。分かるかな?そのような「ハッピーフェイス」をするということ。

「Know your place」(立場をわきまえろ)
移民の家庭で中国系アメリカ人の娘として育った中で、女性より男性の方が大事だという概念があって、私がずっと「立場をわきまえろ」と言われて育ってきた。
例えば、私が小さい時、中国の親戚から聞いたことがあったのだけれど、小さめな口と大きな瞳のある女性がより魅力的だと、何故なら小さめな口の女性は口数も少なく、周りをよく観察するからと。
そしてこれがまさに「Shut up and smile」(黙って頬んでろ)につながっている。

「Shut up and smile」(黙って頬んでいろ)
この歌詞は、気まずい状況で自分をどう守れば良いのかが分からなかった時を指している。以前、そういう時はただ笑って済ましているだけだった。あと前は本当によく泣いていた。家族の中では私が一番感情的。私がよく泣いていたのだけれど、伝統的な中国文化はそういうのにはあまり寛容ではないから、父がそのような感情への対処法を理解する能力を持ち合わせていなかった。なので、彼はいつも「泣くな泣くな、ハッピーでいて」と言っていた。でもそれって、すごく息苦しいことだよね、特にただ泣いていたいだけの時は。誰もそういう時はあると思う。

「Don’t spread your legs」(足を広げるな)
若い時は(女の子らしくない)トムボーイで、いつも座る時に母に「足を閉じなさい」と言われた。そう言われることが、私にpussy(訳注:プッシー=女性器を指すスラング/まんこ)がなんだか悪いもので、隠さなければいけないものなのかと思わせた。「足を絶対に広げるな」という女性が課せられている任務みたいなものは、(単純に見えて)実は様々なものが込められている、私たちが弱くて隙だらけって感覚を与えるから。
でも同時に母はいつも「あなたはそこを守らなければ」とも言っていた。なので、とても若い時から性暴力(の脅威)を意識させられた。

「But no one knows me, no one ever will」(誰も私のことを知らない、今後も誰も知ることはないだろう
昔、大人になったら何になりたい?と聞かれた時、いつもいつも頭の中で小さな声が「歌手だ!」と答えていた。でも将来の夢は中国系アメリカ人の移民らしく、医者とか弁護士でなければならないと教え込まれていた。それで、自分の声を静めて、本能を疑うことを学習してしまった。今でもそれが私にとって一つの課題になっている。

「If I don’t say something, if I just lie still」(何も言わなかったら、じっと横になっていたら
今までこのことをこんなに詳しく話したことはないし、公に言うのも初めてが、私が14歳の時、暴力的な彼氏がいた。
彼は私の部屋に無理やり侵入してきて、親にバレるようにでかい声で叫ぶぞ!と私を脅した、彼は何もかもを私のせいにしようとしたから。
私の中で何かがシフトしてしまったのを覚えている。すべてを愛する純粋でナイーブな女性から、ただ安全でいようとするために彼の言うことを何でもする人へと変わってしまった。彼が酔っ払ってものを投げたりしたある瞬間を今でも鮮明に覚えている。その時私は自分に起きていることをされるがままにじっと横になっているような感覚だった。
(このことを言うのは)とても難しいが、共有したかった。私がそうすることで他の人を力づけることができ、私たちが今まで持ち続けた恥のようなものを癒し、今度はコミュニティのリーダーになるなど、自分たちをエンパワーすることができると思っているから。

「Would I be that monster, scare them all away」(あのモンスターになって、彼らを怖がらせて追い払ってしまうのか
とても若い時、周りから吸収した行動や振る舞いが潜在意識に保存されていく。なので、大人になってから何かのトラウマが身に降りかかるとその潜在意識が呼び起こされ、今まで見てきた(経験してきた)暴力的な行為を繰り返しかねない。DV(ドメスティックバイオレンス)の生存者として、一種のモンスターとその暴力者が自分の中に今でも潜んでいる時があると感じてしまう。でもそれ(その気持ち)を自分の中に閉じ込める義務は私にはない。だからこの歌詞は「I can’t keep quiet」につながる。

「Cuz no one knows me no one ever will」(だって誰も私のことを知らない、今後も誰も知ることはないだろう
あまりにも長く黙り続けた時、その時点でもう時間自体はそんなに残っていない。だからそこからは本題に戻る(訳注:本題=歌詞の中での本題)、だって本当の私を誰もが知らなければ、今後も知る機会はないだろう。

「If I don’t say something, take that dry blue pill」(何も言わなかったら、あの乾いた青い錠剤を飲んだら
「dry blue pill」(乾いた青い錠剤)これは元になっているものが多い。まず一つめ、私は『マトリックス』の大ファンなんだ、実は。私にとって、『マトリックス』は一種の導いてくれる存在な気がする。高校生の時に見て、「あ!あの赤い錠剤飲んでみたい!」と思った。
アーティストでいることは、赤い錠剤を飲んで、社会に立ち向かうことだと思う。
他には(避妊用の)ピルのことも考えたね。いや、賛成とか反対ではないよ、ピルというのは必要なものだと思うから。でもそれを飲むたび、何だかちょっとした恥じらいとか罪悪感みたいなのが結び付けられているのはあるよね?
最後は抗うつ薬だね。薬のこと自体を問題にしているわけではないよ。本当の自分というものを無感覚にしてしまうものの例えで、その青い錠剤は私たちを傷付け、魂を殺してしまうような情報や意見を受け入れさせてしまうものを象徴している。
※【メモ】『マトリックス』の劇中では赤い錠剤を飲むと覚醒し、「本当の世界」で生きることができるが、青い錠剤を飲むと何もかも忘れて機械による仮想現実の「嘘の世界」に戻ってそのまま夢を見続ける…という設定だったはずです。(観ていない人はそんないないはずだと思いますが一応念のため)

「One Woman riot」(ワンウーマンだけの暴動)
これは自分にとってすごく大事な歌詞だった。自分のために立ち上がることや自分の違う一面を見せることを練習していたし、歌詞とは別にそのような(一人で暴動を起こすような)瞬間を覚えていたから。

(※以下説明されているブリッジの部分は「Let it out Let it out Let it out now、There’ll be someone who understands」(吐き出して、吐き出して、もう吐き出して、誰か分かってくれる人はいるはず)などの部分を指している)
歌のブリッジの部分は、聴いた人が自分たちの話もシェアしたくなるように、すごくカタルシスになるようにしたかった。実際に、私たちの期待と予想を遥かに超えるレベルで今それが起きていると思う。
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このAllureの記事を読んで、歌詞に込められた想いだけでなく、MILCKさんがこの曲を作るに至るまでの過程が少し見えてきたではないでしょうか。

『Quiet』のこの歌詞は一回聴いただけでも強く共感する人が多いと思います。表面的な部分だけ見ると、それほど細かい内容にも見えないが、このインタビューで見られるように、MILCKさんが自分に今まであった様々なことを思い出しながら色んな意味を込めて作曲しています。
そしてMILCKさんが歌詞の細部に自分の経験してきたことや痛みを込めていると同じように、聴く人もまた自分の経験してきた様々なことを思い浮かべながらこの歌詞に共感していると思います。

 

Quiet

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MILCK 『Quiet』 歌詞和訳

 ウィメンズマーチで話題になったMILCKさんの『Quiet』の歌詞を和訳してみました☆

MILCKさんが歌詞の意味を解説している記事の和訳はこちらです:
MILCK が『Quiet』の歌詞の意味を解説 Allureインタビュー記事和訳 - Hazel Crossing


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MILCK  "Quiet"  Written by MILCK and AG, Produced by AG
和訳:Hazel Crossing @hazel_crossing

put on your face
know your place
shut up and smile
don’t spread your legs
I could do that
化粧をしなさい
立場をわきまえて
黙って微笑んでろ
足を広げるな
私それならできる

But no one knows me no one ever will
if I don’t say something, if I just lie still
Would I be that monster, scare them all away
If I let the-em hear what I have to say
でも誰も私のことは知らない、今後も誰も知ることはないだろう
何も言わなかったら、じっと横になっていたら
あのモンスターになって、彼らを怖がらせて追い払ってしまうのか
私がもし思っていることを聞かせてしまったら?

I can’t keep quiet, no oh oh oh oh oh oh
I can’t keep quiet, no oh oh oh oh oh oh
A one woman riot, oh oh oh oh oh oh oh
黙ってなんかいられない、 no oh oh oh oh oh oh
黙ってなんかいられない、no oh oh oh oh oh oh
ワンウーマンだけの暴動、oh oh oh oh oh oh oh

I can’t keep quiet
For anyone
Anymore
黙ってなんかいられない
誰のためだろうと
もうこれ以上は

Cuz no one knows me no one ever will
if I don’t say something, take that dry blue pill
they may see that monster, they may run away
But I have to do this
I can’t keep quiet, no oh oh oh oh oh oh
I can’t keep quiet, no oh oh oh oh oh oh
A one woman riot, oh oh oh oh oh oh oh
Oh I can’t keep quiet
だって誰も私のことを知らない、今後も誰も知ることはないだろう
何も言わなかったら、あの乾いた青い錠剤を飲んだら
彼らにはあのモンスターに見えて、全員逃げていくかもしれない
でもやらなきゃいけない
黙ってなんかいられない、no oh oh oh oh oh oh
黙ってなんかいられない、no oh oh oh oh oh oh
ワンウーマンだけの暴動、oh oh oh oh oh oh oh
oh 黙ってなんかいられない

Let it out Let it out
Let it out now
There’ll be someone who understands
Let it out Let it out
Let it out now
Must be someone who’ll understand
Let it out Let it out
Let it out now
There’ll be someone who understands
Let it out Let it out
Let it out now
吐き出して、吐き出して
もう吐き出して
誰か分かってくれる人はいるはず
吐き出して、吐き出して
もう吐き出して
誰か分かってくれる人がいなきゃいけない
吐き出して、吐き出して
もう吐き出して
誰か分かってくれる人はいるはず
吐き出して、吐き出して
もう吐き出して

I can’t keep quiet
Oh I can’t keep quiet
I can’t keep quiet
黙ってなんかいられない
Oh 黙ってなんかいられない
黙ってなんかいられない

No, I won’t keep quiet
No, 私は黙らない
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この曲、歌詞は全部好きですが、特に最後の「I won't keep quiet」(私は黙らない)のところは強い意志が感じられて好きです。
「黙ってはいられない」の気持ちがあるだけではなく、今後は黙らずに積極的に声を上げていくよ、と。
本当にかっこいいです。

Quiet

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ウィメンズマーチで話題のになったMILCKの「QUIET」という歌について

今日は少し前にアメリカのウィメンズマーチで話題になった「MILCK」(ミルク)という歌手と彼女の歌である「Quiet」についてご紹介したいと思います。

まず、マーチで話題になった「Quiet」はこちらです。
MILCKさんは真ん中に立って歌っている女性ですね。

MILCKさんはこちらの曲を書いてからネットでメンバーを募り、マーチまでスカイプなどを通じて練習したものの、本番の2日前までリアルに会ったことがなかったそうです。

それで当日マーチのあっちこっちでゲリラ的にライブを行い、その動画がツイッターに投稿されたところ、「I can't keep quiet」(黙ってなんかいられない)という力強い歌詞が大きな反響を呼び、エマ・ワトソンなどの有名人も含め、本当に多くの人にリツイートされました。

この曲の具体的な歌詞はまた他のエントリーでご紹介しようと考えているのですが、まず、MILCKさんがこの曲に対して持っている想いを少しご紹介できればと思います。

YoutubeにはQuietの公式PVが上がっているのですが、
ビデオ詳細にはこちらの文章があります。
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【原文】
As a survivor of anorexia, abuse, and depression, I can say that I have let the overwhelming pressures of filling media/society's expectations of "how a woman should be" overwhelm and silence my inner voices - without even realizing I was doing it.
Until...I just couldn't breathe anymore. 
As I live more days on this planet now, I can say with full confidence that there are no standards or rules worth crushing our soul bones to fit into. Life gets better when we just... let it out. 
I hope you enjoy, and feel empowered or comforted after watching. If you see some of yourself in this video, please share and pass the word on. Much love to you. ”

【和訳】
拒食症、暴力やうつ病の生存者として言えるが、私も「女性はこうあるべき」というメディアや社会の圧力を受けて自分で自分の内なる声を抑え込み、黙らせてきた…それも全く気付かないうちに。
…私がいっさい息できなくなってしまった、その時まで。
今、この地球でもっと沢山の日々を過ごしてきてこそ言えるが、魂の骨を粉砕してまで無理に自分をはめ込む価値のあるルールや基準はないよ。人生がまだマシになれるのは、私たちがただ…溜めこんだものを吐き出せた時。
こちらの動画を見て楽しみ、見た後心強く感じられ、または慰められた人がいれば嬉しいです。動画の中で少しでも自分を見出した人は、シェアなどで他の人にも広めるように。では、沢山の愛をあなたに。
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MILCKさんって、何て心強くて逞しいんだろう。

歌手として発表している曲はまだ多くないが、
今回のウィーメンズマーチで話題になって
これからはアメリカでどんどん上がってくると思います。

そんな彼女に、今後期待していきたいですね。

では。


MILCK - "Quiet" [Official Music Video]